眼科医が思うICLの魅力と恐怖?!
私は眼科手術医で、長年ソフトコンタクトレンズのユーザーです。
最近話題のICL、かなり魅力的ですよね。
私も毎朝、コンタクトレンズを入れるのが面倒だし、長時間コンタクトをつけていると乾いて不快なので、ICLにはかなり興味を持っています。
ですが、基本的に健康な目に行う手術ですので、デメリットも必ず理解して手術を検討する必要があります。
ICLとは
眼内コンタクトレンズ(Implantable Contact Lens)の略です。
元々はImplantable Collamer Lensの略で、collamerというのは素材の名前です。
眼内にレンズを入れることで屈折を矯正して、見えるようにする手術で、「屈折矯正手術」の一種です。眼内に常にコンタクトレンズが入っているような状態にする手術、と言い換えるとわかりやすいかもしれません。ですから、Implantable Contact Lensと説明する方がイメージしやすく、浸透しています。
ICLのメリット
- メガネやコンタクトをしなくても見えるようになる
- 眼内にレンズを入れているので、日々のレンズのメンテナンスは不要
- コンタクトレンズのように目の表面にレンズを装着しているわけではないので、コンタクトレンズの不快感、異物感がない
ICLとレーシックの比較
「屈折矯正手術」としては、レーシックの方が先に普及しています。ICLとレーシックを比較してみましょう。
ICL | レーシック | |
手術の方法 | 角膜を3ミリほど切開して、眼内にレンズを入れる | 角膜を削って蓋(フラップ)を作り、角膜にレーザーを当てて薄くし、フラップを元に戻す |
可逆性 | 不具合があれば、レンズを取り出すことができる | 削った角膜は元に戻らない |
手術侵襲 | 傷は小さいが眼内の操作が必要 | 眼内の操作はないが、角膜を大きく削るため、術後ドライアイになりやすい フラップトラブル(フラップがずれるなど)にも注意が必要 |
矯正可能度数 | 幅広い度数に対応 | 近視が強いほどたくさん角膜を削らなければならないので、強度近視の場合はできない |
近視の戻り | ほとんどない | 少し近視に戻ることがある |
以上が挙げられます。
では、デメリットを見てみましょう。
ICLのデメリット
- ハローグレア:光が滲んだり、眩しく感じることがある
- 閉塞隅角緑内障:隅角が狭くなって眼圧が上がる
- 白内障:ICLと水晶体が触れたり、眼内の水の流れの変化で水晶体が濁り(白内障になり)、見えにくくなることがある
- 度数ずれ、ICLのサイズのずれ:ICLの入れ替えをしなければならないことがある
- 角膜内皮細胞減少:角膜内皮細胞という、透明な角膜を維持するために必要な細胞が減ることがある
ICLで特有の合併症に、閉塞隅角緑内障があります。緑内障というのは、眼圧が上がって視神経が障害され、視野が欠けてしまう病気です。欠けてしまった視野は元に戻らないため、眼科医は術後の眼圧上昇にとても気を使います。
ICL挿入後は、隅角というところが極端に狭くなることがあります。隅角は眼内の水が眼外に流れ出す経路の一部です。隅角が極端に狭くなれば、眼圧が上がってしまいますが、小さな穴のあいたデザインのICL(hole ICL)に改良されたこと、術前に最適なICLのサイズを選択する方法の改良で、眼内の水の循環経路がしっかりと確保できるようになり、かなり起こりにくくなっています。
ICLの適応条件
ICLを挿入する手術ができる条件をみてみましょう
医師の判断によって、必ずしもこの通りではありませんが、以下が一般的な適応条件です。
- 年齢21歳〜45歳まで
- 3D以上の中等度近視、近視性乱視
- 直近1年間の屈折の変化(近視、遠視、乱視の進行)が0.5D未満であること
ICLの手術を受けられない人
- 進行している円錐角膜
- 活動性のある内眼部、外眼部炎症性疾患のある場合
- 白内障
- 重症の糖尿病、アトピー性皮膚炎、膠原病などの全身性疾患
- 妊娠中または授乳中
- 前房が浅い場合
- 角膜内皮細胞が少ない場合
などが挙げられます。
ICLの慎重適応
以下の疾患がある場合、ICLの手術ができないわけではありませんが、特に慎重に検討する必要があります。
- 緑内障
- ドライアイ
- 軽い円錐角膜または円錐角膜疑い
- 重症ではない全身性疾患
ICLの手術費用
クリニックによって少し違いますが、40−50万円のクリニックが多いようです。
乱視用のICLは少し高く、50−60万円のクリニックが多いようです。
眼科医のコメント
屈折矯正手術と言えば、レーシックか、ICL手術がメインです。
ICLの最大の利点は、角膜を削らないことにあると思います。
レーシックでは、角膜を削るため、角膜に対する侵襲が大きく、術後にドライアイは必発と言っていいですし、削った角膜を元に戻すことはできません。対して、ICLでは角膜に作った小さな傷からレンズを挿入しますので、角膜の傷は小さく、ドライアイによる不快症状が出るリスクは低いです。
レーシックで角膜を削ってしまうと、角膜の形が通常の角膜と変わってしまい、元に戻すことはできません。それに対して、ICLなら、不具合があった場合にICLを摘出してしまえば、ほぼ元の状態に戻すことができます。ICL手術での角膜の傷は小さいため、見え方にほとんど影響しません。
角膜を削らないという点は、将来白内障手術をするときにも有利です。白内障手術のときに挿入する眼内レンズは、角膜の形と眼球の大きさを元にして決めるため、レーシックで角膜の形が通常と違う形になっている場合、眼内レンズの度数が決めにくく、希望とずれてしまうことがあります。最近はかなり改良されてきて、レーシック後の角膜でも、以前に比べると高い精度で眼内レンズの度数が予測できるようになってきましたが、将来の白内障手術では角膜の形を変えないICLの方が有利と言えます。
また、レーシックで作成する角膜の蓋は、自然にくっつきますが強固なものではありません。ですから、スポーツ選手など、強い衝撃や擦れが目に当たる可能性のある方には向きません。術後かなり年月が経過していても、怪我などで強い衝撃があると、フラップが外れたりずれてしまうことがあります。
ICL手術は角膜を削ってしまうことなく、コンタクトやメガネから解放されて、毎日24時間快適な見え方が得られる手術です。
私も長年コンタクトレンズを使い続けていて、ICL手術はかなり興味があります。毎日コンタクトなしで見えるのってやっぱり憧れですよね!結構真剣に考えています。
でもやっぱり、ICLの最大のハードルは、内眼手術であることだと思います。内眼手術とは、目の中を操作する手術のことです。病気のない健康な眼の中を操作する手術ですので、万が一のことを考えると、心理的なハードルは高いのではと思います。ICL手術は眼科医の中でも、内眼手術に習熟した医師のうち、さらにICL手術の認定を受けた医師しか行えないシステムになっています。これは安心できる要素の一つだと思いますが、手術は、少ないながらも合併症が発生する可能性もあります。デメリットもよく理解してから決めるのが大切です。
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