多焦点眼内レンズシリーズ

白内障手術は、ただの視力回復ではなく、「見えることによって生活の質を高める」チャンスでもあります。多焦点眼内レンズは日々進化しており、なかでも世界初の5焦点眼内レンズ「Intensity(インテンシティ)」は注目すべき存在です。
Intensityは、2020年9月より日本で使用可能となっている、Hanita Lenses社(イスラエル)製の回折型多焦点眼内レンズです。
◆ インテンシティとは?
インテンシティは、イスラエルのHanita Lenses社が開発した回折型の多焦点眼内レンズです。従来の3焦点レンズに比べ、より多くの焦点距離を持ち、遠方から手元までの見え方をスムーズに補うことができます。
👓 焦点距離:∞(遠方)、133cm(遠中)、80cm(中間)、60cm(中近)、40cm(近方)
これにより、日常生活に必要なほぼすべての視距離をカバーできます。
◆ 特徴とメリット
- 世界初の5焦点設計により、滑らかな連続視界を提供
- PC、スマートフォンなど、中間から近方視が強い
- DLU(Dynamic Light Utilization)テクノロジーにより、瞳孔径に応じて効率的に光を配分
- 光学ロスはわずか6.5%で、従来の多焦点IOLよりコントラスト感度が高い
- ハロー・グレアが少なく、夜間視力にも配慮
- 自由診療で使用可能(選定療養の対象外)

MTF(Modulation Transfer Function)曲線とは、レンズがどれだけ「くっきり」物を見せられるかを示す光学性能の指標です。
縦軸がコントラストの高さ(視覚の明瞭度)、横軸が焦点距離(ディオプター:D)を表しています。
- グラフの最も高い山が「遠方」にあり、そこから段階的に中間・近方へと滑らかに移行している構造です。
- 各距離にしっかりしたピークがあることで、どの距離でもピントが合いやすい視界が期待できます。
- 特に中間距離(+1.5D)や近方(+3.0D)にもはっきりとした山があるのは、多焦点眼内レンズとして非常に高性能です。
焦点位置 | ディオプター | 見えやすい距離(目安) | 特徴 |
遠方 | ∞(0D) | 数メートル先〜遠景 | 最も高いピーク(視力良好) |
遠中 | +0.90D | 約110cm前後 | 室内全体・立ち仕事など |
中間 | +1.50D | 約67cm前後 | デスクワーク、PC作業など |
中近 | +2.00D | 約50cm前後 | 書き物、手元の作業など |
近方 | +3.00D | 約33cm(読書距離) | スマホ、読書など細かい作業 |
◆ DLUテクノロジーとは?
インテンシティは、光学部を3つのゾーンに分け、各ゾーンに異なる回折構造を配置しています。これにより、瞳孔の大きさ(環境や見る距離により変化)に応じて、光の配分が最適化されます。
例えば、暗い場所では瞳孔が大きくなり、対応する外側のゾーンが優先的に使われ、遠方視がより見やすくなるなど、様々な環境でより安定した見え方が得られます。


◆ 高コントラスト感度で快適な見え方
従来の回折型多焦点眼内レンズは、10〜20%程度の光学ロスがありましたが、インテンシティは6.5%と最小限です。そのため、より明るく、くっきりとした見え方を提供できるのが大きな特徴です。
例えば、回折型の2焦点眼内レンズでは、遠方に41%、近方に41%を振り分けるデザインで、18%の光学的エネルギーロスが発生します。

◆ 臨床試験から見えてきたIntensityの実力
世界各国の眼科専門医による臨床試験が行われ、以下のような結果が得られています。
試験実施者 | 症例数 | 評価時期 | 主な結果 |
G. Auffarth(ドイツ) | 10眼(5人) | 3ヶ月 | ベンチテスト含め安定した性能 |
R. Lapid-Gortzak(オランダ) | 100眼(50人) | 3ヶ月 | 両眼同日手術での良好な安定性 |
G. Bianchi(アルゼンチン) | 112眼(56人) | 6ヶ月 | 中間・近方に対する高い満足度 |
E. Assia(イスラエル) | 40眼(20人) | 3ヶ月 | 単眼・両眼ともに高い視力回復 |
A. Agarwal(インド) | 30眼(15人) | 9ヶ月 | 長期経過でも安定したパフォーマンス |
▶ 多くの報告で、40〜80cmの中間距離における視力が特に良好とされています。
▶ スマホ・読書・料理・運転など、日常生活のあらゆるシーンにおいて満足度が高い結果が得られました。
◆ パンオプティクスとの比較
比較項目 | Intensity | PanOptix |
焦点数 | 5焦点 | 3焦点 |
中間視の幅 | ◎(60〜80cm) | ○(60cm) |
近方視 | ◎(40cm) | ○(40cm) |
コントラスト感度 | 高い | 標準的 |
ハロー・グレア | 少なめ(個人差あり) | ややあり |
→特にPCやスマホ操作など近〜中間距離の作業が多い方に適した選択肢です。
◆ どんな方におすすめ?
- ⭐️できる限り眼鏡を使わず生活したい方
- ⭐️より自然で快適な見え方を求める方
- ⭐️コントラスト感度を重視する方(くっきり見たい方)
- ⭐️高機能のレンズに関心のある方
- ⭐️PCやスマホ、家事など中間から近くの作業が多い方
- ⭐️夜間運転などでハロー・グレアが気になる方
◆ 注意点
- 👓30cm以下の近方は、眼鏡が必要になることがあります
- 💡自由診療のみでの提供です(選定療養対象外)
- ⚠️強度近視の方では、適切な度数がない場合があります
◆ 私から
これまでにも、「より良い視界」を希望される患者さんと相談しながら、自由診療の一環としてインテンシティを使用してきました。
インテンシティの魅力は、何よりもくっきりとした視界の快適さにあります。たしかに、30cm以下の細かい作業では老眼鏡が必要になるケースもありますが、そのデメリットがあっても、遠方〜中間〜手元に至るまでの自然でスムーズな視界は非常に満足度が高いと感じています。
眼内レンズですので、若い頃の完全なピント調節力を取り戻せるわけではありません。しかし、「見えることでもっと人生を楽しみたい」と願う方にとっては、選択肢に入れる価値のあるレンズだと実感しています。
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