これまで多焦点眼内レンズはヨーロッパ製やアメリカ製が主流でした。
そんな中、2024年にHOYA株式会社から誕生したのが、日本初の純国産・三焦点多焦点眼内レンズ「ジェメトリック(GEMETRIC)」です。

🔍 ジェメトリックの基本情報
- 三焦点設計(遠方・中間・近方)
- 中間加入度数:+1.75D(約80cm)
- 近方加入度数:+3.5D(約40cm)
- スマホ操作・PC作業・テレビ視聴・屋外歩行まで、日常で使う距離をバランスよくカバー
- 中心3.2mmのみを回折構造とし、周辺部は単焦点構造 → 夜間の瞳孔拡大時にもハロー・グレアがかなり少ない
- 高精度な製造技術により、光学的なブレや誤差が極めて少ない
- 回折型3焦点レンズでありながら、自然な見え方と高いコントラスト感度を両立

⇧ジェメトリックは、中心3.2mmのみに回折構造を採用。周辺は単焦点構造のため、夜間の瞳孔拡大時でもハロー・グレアが抑えられ、光の質が保たれます。この「中心だけに回折ゾーンを集めた設計」はとても理にかなっており、特に夜間の車の運転など暗所視の質を重視する方にとって安心感のある設計と言えます。
🌸ジェメトリックとジェメトリックプラスの違い
– 同じ構造だけど、見え方の重心が違う–
ジェメトリックシリーズには、標準型の【ジェメトリック】と、近方重視型の【ジェメトリックプラス(GEMETRIC+)】の2種類があります。両者は基本構造は同じですが、焦点配分のバランスが異なります。
✅ ジェメトリック(標準型)
- 回折型3焦点
- 遠方と中間距離(80cm)が得意
- パソコンや料理、テレビなどの生活距離を重視
- 近方(読書やスマホ)は見える。ほとんどの人が近くもメガネ不要という報告もあるが、やや弱めな設計のため、必要に応じて老眼鏡を使うケースもあります。
✅ ジェメトリックプラス(近方強化型)
- ジェメトリックと同様の回折型3焦点
- 近方(30〜40cm)に強い設計
- 読書、裁縫、スマホ操作に高いパフォーマンス
- 中間〜遠方も十分に見えるが、近方の明視域を広げた構成

⇧ ジェメトリックとジェメトリックプラスの光量配分の違い
このグラフは、ジェメトリックとジェメトリックプラスの焦点ごとの光量配分(MTF)を比較したものです。
- ジェメトリック(濃い線):遠方により多くの光を配分し、遠方視のコントラストが高い設計
- ジェメトリックプラス(淡い線):近方に光を多く配分し、近方視の質を強化
この違いにより、
▶︎ 遠方をよりシャープに見たい方にはジェメトリック
▶︎ スマホや読書など近方作業を重視する方にはジェメトリックプラス
という使い分けが可能になります。
⭐️新しい視界設計「ペアリング」という選択
従来の多焦点眼内レンズでは、「両眼に同じレンズを入れる」のが一般的でした。
「左右に異なる設計のレンズを入れて明視域を拡大する」という新しい発想があり、ジェメトリックとジェメトリックプラスを左右に入れるという方法があります。それがペアリングという考え方です。
💡 ペアリング例
- 右眼にジェメトリック(標準型)で遠方〜中間距離をしっかりカバー
- 左眼にジェメトリックプラス(近方強化型)で近方の見え方をサポート
この組み合わせにより、
- 遠方から中間は両眼で自然に
- 近方はジェメトリックプラスが補助
と、1枚のレンズではカバーしきれない距離感を、両眼の役割分担で補完する設計が可能になります。
📓 ミニウェル・ウェルフュージョンとの共通点も
この「片眼ずつ異なるレンズを入れる」というコンセプトは、
イタリアのSIFI社が提唱する“ミニウェル・ウェルフュージョン”にも共通する発想です。
ミニウェルシリーズでは、
- 右眼にMini Well Ready(標準型EDOF)
- 左眼にMini Well PROXA(近方強化型EDOF)
というように、両眼の見やすい距離をずらして補い合うことで、それぞれの役割が分担されます。広い焦点範囲をカバーできるという設計になっており、「ペアリング」と非常に近い考え方と言えます。
⭐️医師としての私見:ペアリングの有効性と注意点
ジェメトリックのペアリングは、特に「見やすい距離を最大限広くしたい」という方に非常に適した選択肢です。
ただし以下のような注意点があります:
- 左右差に敏感な方には不向きな場合がある
- 眼位や融像力の弱い方では、違和感が出る可能性もある
- 手術前にペアリング前提であることへのしっかりとした理解が必要
このような「ペアリング」は、術後の見え方に対する満足度をさらに高める可能性がある一方で、患者さんごとの見え方の癖や脳の順応性も大きく関わってきます。ジェメトリックとジェメトリックプラスは基本構造が同じなので左右の違和感は感じにくいと思われますが、特に、強い左右差に敏感な方や、眼位に問題がある方には慎重な判断が必要です。
それでも、両眼で補い合うというコンセプトは非常に魅力的で、「日常生活をより快適に送るための視界設計」として、ペアリングも有効な選択肢だと思います。
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