― 多焦点眼内レンズを検討するとき ―
多焦点眼内レンズの相談で、とてもよく聞かれる質問があります。
「先生、結局どのレンズがいいですか?」
この質問自体が悪いわけではありません。
ただ、正直に言うと、外来でこの質問をされても即答できることはほとんどありません。
結論から言います。
「一番いいレンズ」は存在しません。
あるのは、「自分自身が一番いいと思えるレンズ」だけです。
この記事では、「どのレンズがいいですか?」と単刀直入に聞く前に、
ぜひ知っておいてほしいことを、眼科手術医の立場からお話しします。
【この質問をされる方の4つのタイプ】
① 一番いいのがあるはず。調べたり勉強するのは面倒
② たくさん勉強はした。でも結局迷子
③ 何となく不安で、決断そのものを避けたい
④ すでに答えは決まっているが、背中を押してほしい
①「一番いいのがあるはず」と思っている方
実は、うちの母がこのタイプです。
娘なので、生活や嗜好はある程度わかっています。
患者さんよりは、レールを引きやすい立場です。
それでも私は、
「じゃあこれで」と即答はしませんでした。
冷たいようですが、
それが医師としての冷静さであり、責任だと思っています。
その目を一生使うのは、私ではなく母だからです。
このタイプの方に共通しているのは、
「正解は一つあるはず」という前提です。
でも、眼内レンズには
・すべてがよく見える万能なもの
・誰にとっても一番になるもの
はありません。
どのレンズにも、得意な距離と、苦手な場面があります。
だから医師や検査員は、
「一番いいレンズ」を即答する代わりに、
・どの不便なら許容できるか
・何を一番大事にしたいか
を一緒に整理しようとします。
それは意地悪でも、責任逃れでもありません。
その人の満足を本気で目指すと、
外来で即答はできない
というのが正直なところです。
特に多焦点眼内レンズの場合、知識ゼロの状態から、数分の外来で決めてしまうことは不可能です。
このタイプの方には、
次の2つのステップが必要になります。
① 自分の生活や嗜好を言語化する
② 多焦点眼内レンズの種類や特徴を知る
①は、白内障術前アンケートを使って整理することが多く、
②は、パンフレットや動画、ホームページなどで
事前に情報を見てもらうことが多いです。
私の場合は、患者さんが取り組みやすいように、
①の結果をもとに2種類ほど候補を絞り、
「まずはこのあたりから検討してみてください」
と案内することが多いです。
② たくさん勉強はした。でも結局迷子の方
このタイプの方は、
むしろ相談がしやすいことが多いです。
すでにある程度の知識があり、
不安や疑問を言葉にできる方が多いからです。
まずは術前アンケートを使い、
「術後の見え方で何を一番重視しているか」を確認しながら、
理解のすり合わせを行います。
知識は豊富でも、
「自分は何を一番大事にしたいのか」
を考えること自体をスキップしている方もいます。
その場合は、
会話の中でご本人の言葉を引き出していきます。
また、
・理解が合っているかどうかが不安
・見え方を極端にイメージしてしまっている
というケースも少なくありません。
たとえば、
「この距離以外は全く見えない」
「ハローグレアがあれば夜間運転はできない」
と誤解していることがあります。
この場合は、
現実的な見え方の幅や限界を整理しながら検討します。
知識はあるけれど優先順位が決められない方には、
ある程度の誘導や限界の説明を行い、
考え方の道筋を整えていきます。
③ 何となく不安で、決断そのものを避けたい方
このタイプの方は、
まだ白内障手術自体に前向きになれていないことがあります。
白内障の多くは、急ぐ必要はありません。
「今は無理に決めなくて大丈夫ですよ」
「動画などを見ながら、やりたくなったら考えましょう」
そう伝えるだけで、
プレッシャーが外れ、前向きに検討できることもあります。
④ すでに答えは決まっているが、背中を押してほしい方
この場合は、まず理解の確認を行います。
選択理由や、
メリット・デメリットをきちんと理解した上での判断で、私もいいと思えば率直に
「いい選択だと思います」
とお伝えします。
ただ、私個人は
「十分に検討したと思いたい」
という気持ちもとても大切だと思っています。
そのため、あえて別の選択肢も提示し、最終比較をしたうえで
「これを選んで納得できる状態」
になるようサポートすることもあります。
まとめ
多焦点眼内レンズ選びは、
知識量の勝負ではありません。
また、
医師や検査員に丸投げするか、
自分一人で決めきるか、
という二択でもありません。
大切なのは、
・自分の生活や価値観を言葉にすること
・それをもとに医師や検査員と一緒に整理すること
・最後は、自分が納得できる選択に辿り着くこと
です。
「どのレンズがいいですか?」と聞く前に、
ぜひ一度、
何を一番大切にしたいか
を考えてみてください。
それが、
「自分自身が一番いいと思えるレンズ」に辿り着く
一番の近道だと、私は思っています。
⭐️眼内レンズの種類や、単焦点・多焦点を含めた一般的な決め方については、別の記事で詳しく解説しています。

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