両眼に異なる種類の眼内レンズを入れるって、どういうこと?
白内障手術では、通常、左右の眼に同じタイプの眼内レンズ(IOL)を入れるのが一般的です。
しかし最近では、「ミックス&マッチ(Mix & Match)」という手法、すなわち左右の眼に異なる種類のIOLを挿入する方法も選択肢の一つとして注目されています。
多焦点眼内レンズには、それぞれ得意な距離や特性がある一方で、苦手な部分もあります。異なる種類のIOLがお互いの弱点を補い合うことで、両眼での見え方のバランスや質の向上を目指すのが、この「ミックス&マッチ」という考え方です。
代表的な組み合わせは、Vivity × PanOptix
中でもよく知られているのが、優位眼にEDOFレンズの「Vivity」、非優位眼に回折型3焦点レンズの「PanOptix」を挿入するパターンです。
この組み合わせは、
- EDOF(焦点深度拡張型)レンズであるVivityが持つ、「自然でコントラストの高い見え方、ハロー・グレアの少なさ」
- 回折型レンズであるPanOptixの「近方視力の強さ」
を補い合うことで、視覚的なバランスを取ることができます。
Labirisらの論文(G Labirisら;Cataract Refract Surg. 2024 Feb 1;50(2):167-173)では、Vivity+PanOptixのミックス群が、両眼同一レンズ群(三焦点またはEDOF)と比較して、生活の質(QOL)や遠近両用機能のバランスで最も高い評価を得たと報告されています。
Pan Optixの解説はこちら⇩
ミックス&マッチは「選択肢のひとつ」として
私はこのミックス&マッチを「標準」としてすべての方にお勧めするわけではありませんが、
「多焦点眼内レンズに興味はあるけれど、デメリットも気になる」という方にとっては、ひとつの有力な選択肢となり得ると思います。
✅ 両眼にVivityで満足される方はもちろん多い
Vivityはとても優れたレンズです。
- ハロー・グレアが少なく
- 自然な見え方
- コントラスト感度が高い
という特徴があり、“違和感が少なく、くっきり見える多焦点”という印象です。
Vivityは本来「近方視はあまり得意ではない」とされ、50cmくらいまでは裸眼で見えるものの、30〜40cmではメガネが必要になるケースが多いです。
それでも「これで十分」という方には、両眼にVivityを入れてご満足いただくことも少なくありません。
Vivityの解説はこちら⇩
🔁 Vivityで手元が足りないと感じたら、片眼にPanOptixを入れる選択肢も
「片眼にVivityを入れてみたけれど、やっぱり手元がもう少し見えてほしい」と感じる方には、もう片眼にPanOptixを入れるというアプローチも可能です。このような流れでミックス&マッチを選択することもあります。
Vivityの自然さと、PanOptixの近方の見やすさが組み合わさることで、生活の中での見え方の幅が広がります。
もちろん、「最初から近くをしっかり見たい」方には、最初から両眼にPanOptixやOdysseyのような回折型多焦点を選択する方が適しています。
🆕 今後注目されるかもしれない組み合わせ
最近では、EDOFの新製品「PureSee(ピュアシー)」の使用も始まっており、
回折型三焦点レンズである「Odyssey(オデッセイ)」との組み合わせも、今後の選択肢の一つとして注目されるかもしれません。
現時点では臨床経験やデータが限られていますが、
それぞれのレンズの特徴や光学設計を理解しながら、見え方の質感や距離感の相性を見極めていくことが重要だと考えています。
今後、さらに実績が蓄積されることで、より柔軟なミックス&マッチが可能になることを期待しています。
オデッセイ、ピュアシーの解説はこちら⇩
🌀 網膜に問題がある場合の応用型ミックス
多焦点眼内レンズの基本適応は「両眼とも健康な眼」であることですが、現実には多焦点レンズを使いたい方の中には、他に疾患がある方もいらっしゃいます。
私は網膜硝子体の病気の方の手術にも多く携わってきましたが、黄斑前膜(ERM)などの軽度病変がある方にも、「多焦点を入れたい」という希望を持たれるケースがあります。
通常、網膜に疾患がある場合は回折型レンズを避けるのが原則です(コントラスト感度が落ちるため)。
そのような場合、黄斑前膜がある眼にはアイハンス(保険適応のEDOF)を使用し、白内障手術と硝子体手術を同時に行い、健常眼にはシナジーやオデッセイなどの回折型多焦点を使用する、といった応用的なミックスを行うことがあります。
患者さんの希望によっては、このような選択をすることもあります。
📐 Mini Well Ready × PROXA という「設計思想を共有するミックス」
Mini Well Ready(標準型EDOF)とMini Well PROXA(近方強調型EDOF)の組み合わせ(この組み合わせの方法をMiniWellウェルフュージョンシステムと言います)は一種のミックス&マッチと言えるかもしれません。
ミックス&マッチでは左右の見え方の”質感”の差が問題になることがあります。
たとえば、EDOFと三焦点の組み合わせでは、
- コントラスト感度
- 光のにじみ方
- ピントの合い方の感覚
などが左右で異なるため、微妙な違和感を覚える方もいらっしゃいます。
その点、Mini Well Ready(標準型EDOF)とMini Well PROXA(近方強調型EDOF)の組み合わせ(MiniWellウェルフュージョンシステム)は、
いずれも非回折型EDOFという共通設計に基づいており、左右で焦点距離は異なるものの、コントラスト感や見え方の質感が揃いやすいのが特徴です。
他の異種混合型と比べると、両眼視としての自然さが得られやすいという意味で、一定の価値があると感じています。
ミニウェル ウェルフュージョンシステムについての解説はこちら⇩
ミックス&マッチには「設計の相性」も大切
単に「違うレンズを入れる」だけでなく、光学的な“相性”や“設計の整合性”まで意識することが、より自然な見え方に近づくための鍵かなと感じています。
最後に:患者さんそれぞれの「最適な見え方」を考え続ける
「どんな距離をよく見たいか」「どんな生活を送りたいか」
そうした未来のイメージに寄り添う選択を、常に丁寧に考えていきたいと思っています。
ミックス&マッチも、現時点では一つの選択肢と捉えていますが、
今後も研究結果に学び、臨床経験を積み重ねながら、
“その人にとっての最適”を見極めていけるよう、日々アップデートを重ねていきたいと思います。
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