多焦点眼内レンズで後悔しないために

多焦点眼内レンズ

──後悔した人と、しなかった人の違いとは?

多焦点はとても良い選択肢ですが、すべての人に向くわけではありません。

大切なのは「自分の目と生活に合うかを正しく理解すること」。

この記事ではその判断のための道しるべをまとめています。

白内障手術で多焦点眼内レンズ(多焦点IOL)を検討するとき、

誰もが一度は「後悔しない?」という不安にたどり着きます。

私自身、日々の診療の中で、こうした相談を本当にたくさん受けます。

そして思うのは──

後悔を防ぐのは、「レンズ選び」そのものではなく、「期待値の整え方」だということ。

この記事では、眼科医としての本音も含めながら、後悔しないための考え方をまとめます。


1. 多焦点レンズが向いていないケース

まず大前提として、どんなに高性能なレンズでも万能ではないということへの理解が必要です。どんな方でも、若い頃の見えかたに戻るわけではありません。

その上で、特に次のような場合は、慎重に検討が必要です。

① 網膜や視神経に病気がある場合

黄斑疾患、緑内障、糖尿病網膜症などがあると、多焦点レンズのデメリットである「コントラスト低下」が強まります。

→ 「単焦点+必要に応じてメガネ」の方が快適な見え方になるケースも多いです。


② 日常的に夜間運転をする人

多焦点レンズでは、ハロー・グレア(光のにじみ)を単焦点レンズの場合より自覚します。回折型のレンズでは、よりハローグレアを自覚しやすいです。

感じ方は個人差によるところも大きいです。また数ヶ月の経過で慣れてきますが夜間運転が多い方は慎重に検討しましょう。


③ とにかく完璧を求める方、細かい性格、心配性な人

多焦点は「日常において、遠くも近くもそこそこ見えてメガネの使用頻度を減らすこと」がコンセプトで作られています。

全部が10点満点”を求める方は、どのレンズでも後悔しやすいです。

気にしやすいタイプの方は、多焦点レンズの“小さな弱点”が気になりやすく、その分ストレスを感じることがあります。

そうした場合は、安定した見え方が得られる単焦点の方が、結果として満足度が高いこともあります。


④ 40cmの手元作業を“裸眼だけで完璧に”やりたい人

レンズによって得意距離が違います。

細かい刺繍・精密作業・手元趣味が多い方は、ペアリング(左右で異なるタイプを組み合わせる)など多焦点レンズでもより近くが見やすくなるという工夫はできますが、限界があります。

また、そもそもそのような状況はいわゆる「日常」とは別なので、多焦点眼内レンズのコンセプトから外れます。


2. よくある誤解

誤解①:多焦点ならメガネが“完全に”不要になる

→ メガネの必要度は、完全にゼロになる方もいますが、「人による」のが事実です。

特に読書やスマホ距離の“長時間使用”ではメガネがある方が楽な場合があります。


誤解②:高いレンズ=見え方も完璧

→ 高いレンズであれば良いというものではありません。多焦点眼内レンズの特性を理解し、自分のニーズに合ったものを選ぶことが大切です。


誤解③:病気があってもなんとかなるのでは?

→視神経や網膜の異常があると、多焦点の弱点が前面に出ます。

病気があるからこそ「無理をしない」という選択が必要な場面があります。


3. 後悔しないための“期待値の整え方”

① 自分の生活スタイルの“優先順位”を決める

  • 遠くの見えやすさ
  • 手元の快適性
  • 夜間運転の重要度
  • メガネの許容度

など、どれが一番大事かを決めると道筋がクリアになります。


② どこまでを裸眼で、どこからはメガネOKかを考える

この線引きができると、満足度が格段に上がります。


③ 完璧より心地よさを優先する

多焦点は「生活が楽になる」レンズ。

“見え方のテストの点数”よりも、“日常の快適さ”を基準にする方が、後悔しにくいです。

この距離の見え方はどう、この距離ではどう、と距離ごとに見え方の評価をしてしまうタイプの方は、いろいろな欠点が気になってしまうことが多く、不向きです。


4. 後悔しなかった方の共通点

診療していて感じる、“多焦点レンズを幸せに使われている方”には共通点があります。

◆ ① 事前に“弱点”も理解して受けている

ハロー・グレアや得意距離などを把握したうえで手術を受けています。


◆ ② メガネ使用を少し許容している

完全にゼロを目指さず「必要な場面では使う」という柔軟さがあります。


◆ ③ 主治医や検査員としっかり相談している

これが最も大きいポイント。検査で得られる情報は、レンズ選びの精度に直結します。

目の状態を丁寧に把握した上で選ぶことが、後悔しないための最も大切な工程です。


5. 医師としての本音:

人それぞれに「見え方の希望」や「大切にしている生活」があります。

私が重視しているのは、その人にとって本当に心地よい見え方が得られるかどうかです。

多焦点レンズは素晴らしい技術で、合う方には大きな満足をもたらします。

一方で、病気や性格、生活スタイルによっては、単焦点レンズの方が幸せに過ごせることもあります。

だからこそ私は、「未来が少しでも明るくなる選択」を患者さんと一緒に探すことを大切にしています。

レンズ選びはゴールではなく、その人の人生に寄り添うスタート。

今ある選択肢の中で、その方にとって最も無理がなく、一番自然に“未来の視界”を楽しめる方法を一緒に決めていきたい。

それが、医師としての私の本音です。


まとめ

多焦点レンズは、合う人が使うと、人生が楽になるレンズ

後悔しない人は、「レンズの特徴を理解して自分に合った選び方」ができた人です。

後悔しないために大事なのは、レンズそのものの性能より、自分の生活と性格、目の状態を正しく理解した上で選ぶこと。

適切に選べば、多焦点レンズは人生の景色を変えてくれる可能性があります。

そして、疑問や不安は遠慮なく相談してくださいね。

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