PanOptixとPanOptix Proをデータで読み解く — エビデンスの現在地

多焦点眼内レンズ

白内障手術における三焦点眼内レンズとして世界的に広く使用されているのが PanOptix です。

では、その実力はどの程度エビデンスで裏付けられているのでしょうか。

そして最新の進化版である PanOptix Pro は、何をどこまで変えたのでしょうか。

本記事では、まず確立された PanOptix の論文データ を整理し、その上で PanOptix Pro の現在地 を冷静に読み解いていきます。


■ PanOptix とは — 臨床データに裏付けられた実績

PanOptix は、遠方・中間・近方の視機能を同時に改善することを目的とした 三焦点眼内レンズ です。中間視(約60 cm)に焦点を配置する設計は、パソコン作業や室内生活に適した距離設定であり、臨床研究でもその有用性が示されています。

長期成績の代表的な研究(Jeon ら)では、術後1〜3年にわたり視力と屈折誤差の 安定性が維持されること が報告されています。屈折誤差(MRSE)は術後早期から大きく変動せず、3年後まで視機能と屈折状態が良好に持続することが示されました。これは術後の見え方の予測性が高いことを意味します。

また、複数研究を統合した pooled analysis においても、遠方・中間・近方すべての距離で 高い視機能が再現性をもって得られる ことが報告されています。

PanOptix は、単なる短期的な視力改善ではなく、安定性と再現性を備えた三焦点レンズ としてエビデンスが蓄積されています。


■ PanOptix の視界の質 — コントラスト感度と光視現象

視力(文字が読めるか)と同じくらい重要なのが、視界の質(quality of vision) です。夜間や暗所、光源周囲での見え方は、日常生活の満足度を大きく左右します。

✔ コントラスト感度

回折型三焦点レンズでは、光を複数焦点に分配する構造上、理論的にはコントラスト感度が低下する可能性が指摘されています。

複数の IOL を対象とした解析では、三焦点 IOL において一定のコントラスト低下傾向が確認される一方で、臨床的に日常生活へ大きな支障をきたすレベルではないとする報告が多く示されています。

つまり、理論的な低下はあるものの、実生活レベルでは許容範囲内に収まることが示唆されています。


✔ 光視現象(Halo / Glare / Starburst)

患者報告ベースの大規模解析では、PanOptix を両眼に装着した約580名を1〜12か月追跡した結果、

  • Glare(まぶしさ):約 33.6%
  • Halos(ハロー):約 43.9%
  • Starbursts(星状光):約 30.4%

と報告されています。

一方で、重度と回答した割合は低い(Glare 2.9%、Halos 5.4%、Starbursts 3.4%)ことも示されています。

三焦点IOL全般に一定の光視現象は見られますが、症状の程度や患者の慣れ(adaptation)により、最終的な満足度は必ずしも大きく損なわれないという傾向が報告されています。


■ PanOptix Pro — 何が変わったのか

PanOptix Pro は、従来の PanOptix を基盤に進化させた 次世代三焦点レンズ です。

ただし、ここで重要なのは、

現時点では PanOptix Pro 単独の臨床成績を示した査読論文はまだ公表されていない

という事実です。

現在確認できるのは、

  • PanOptix Pro を対象とした臨床試験が進行中であること
  • 視力のみならず、患者報告アウトカム(光視現象・コントラスト感度・視覚満足度) が評価項目に含まれていること

です。

これは、Pro が単なる視力数値の向上ではなく、視界の質を含めた総合的評価を重視している設計思想であることを示しています。


■ PanOptix Pro に期待される改善点(設計上の情報)

メーカーが公開している設計情報によれば、PanOptix Pro では

  • 光散乱の低減
  • 光の利用効率の向上
  • 回折による分散光の最適化

が図られているとされています。

これらは理論的には、

  • コントラスト感度の改善
  • ハローやグレアの主観的強度の低減
  • 夜間視機能の向上

につながる可能性があります。

しかしこれらは、設計・ベンチデータに基づく理論的背景であり、臨床アウトカムとして確立されたデータではありません。

今後、査読論文として公開される臨床結果が重要になります。


■ まとめ — エビデンスの現在地

✔ PanOptix は豊富な臨床エビデンスに支えられた三焦点レンズ であり、長期安定性・視機能・患者報告アウトカムが確立されています。

✔ 視界の質(コントラスト感度・光視現象)についても、一定の光視現象はあるものの、重度症状は少なく、日常生活レベルでの満足度は維持されることが示されています。

✔ PanOptix Pro については、現時点では査読済み臨床論文は存在しません。

✔ ただし、視界の質を重視した試験設計が進行しており、光学設計上の改良も示されています。今後の論文化が評価の鍵になります。


三焦点レンズを選択する際に重要なのは、

「新しいかどうか」ではなく、

どのレベルのエビデンスが存在するか です。

PanOptix は確立された実績を持つレンズ。

PanOptix Pro は、その延長線上にある進化型。

現時点での科学的立ち位置を正確に理解することが、

冷静な意思決定につながります。


📌 リファレンス

  • Zhu D, et al. Patient-reported visual disturbances with multifocal IOLs: a systematic review. PMCID PMC11754775.
  • Sahin VY, et al. Outcomes after bilateral implantation of AcrySof IQ PanOptix: photic phenomena and visual outcomes. PMCID PMC10445311.
  • García-Pérez JL, et al. Short-term visual outcomes of a new trifocal IOL: PanOptix. PMCID PMC5436431.
  • Modi SS, et al. Comparison of visual function and patient-reported outcomes: PanOptix vs. Synergy. Journal of Cataract & Refractive Surgery.
  • ClinicalTrials.gov NCT07076277.

コメント

タイトルとURLをコピーしました