PureSeeとVivityをどう選ぶ?|光学データと臨床実績から読み解くEDOFレンズ

多焦点眼内レンズ

① はじめに

Vivity(Alcon)と PureSee(Johnson & Johnson)は、

どちらも 「単焦点眼内レンズに近い自然さを保ちつつ、中間〜近方の見やすさを広げる」 ことを目的とした

EDOF(焦点深度拡張)眼内レンズです。

ただし、現時点では「生活視に明確な差がある」と結論づけられる大規模臨床データは存在していません。

そこで本記事では、以下の3つの視点を明確に分けて比較します。

  1. 公開されている光学データ(MTF・瞳孔依存性)
  2. レンズ設計上の特徴
  3. 実際の臨床研究(ERM・緑内障)と私自身の臨床印象

② レンズの基本情報

Vivity(Alcon)

  • 非回折型EDOF(X-Waveテクノロジー:波面形成型)
  • 単焦点に近い、自然でクセの少ない見え方
  • ハロー・グレアなどの異常光視が非常に少ない
  • 世界的に症例数が多く、臨床実績が豊富

PureSee(J&J)

  • 非回折型EDOF(屈折光学型/Purely Refractive Design)
  • 瞳孔径が変化してもMTFが安定しやすく、暗所に強い設計
  • 40cm付近での視力低下が比較的ゆるやか
  • 臨床論文はまだ少なく、今後のデータ蓄積が待たれる段階

③ 光学データに見る「瞳孔依存性の違い」

J&J が公開している PureSee の公式パンフレットでは、以下の特徴が示されています。

✔ PureSee

  • 瞳孔径 3mm → 5mm でも MTF低下がほぼ認められない(Loss ≒ 0%)
  • 明所・暗所で見え方が変わりにくい

→ 瞳孔依存性が極めて少ない設計(暗いところでも見やすい)

✔ Vivity

  • 瞳孔径 3mm → 5mm で MTFが約20%低下

→ 暗所でわずかなコントラスト低下が生じる可能性(※個人差あり)

この点だけを見ると、

光学ベンチデータ上は PureSee に分がある と言えます。

※MTF解析とは

レンズが「コントラストをどれだけ正確に再現できるか」を示す光学指標です。数値が高いほど輪郭がくっきり見えますが、生活視そのものを直接表す指標ではありません。


④ 距離ごとの見え方の傾向(総合的な印象)

距離VivityPureSee
遠方◎ 非常に自然◎ くっきり安定
中間(約60cm)◎ 得意◎ 得意
近方(約40cm)△ EDOFとして妥当○ 視力低下が比較的ゆるやか
暗所△ 個人差あり◎ データ上は安定

⑤ Vivity の「臨床実績」を支える3つの研究

PureSee は比較的新しいレンズで、臨床データはまだ限定的です。

一方 Vivity には、すでに複数の実臨床研究が存在し、これまで多焦点レンズは難しいと言われてきた網膜疾患や緑内障疾患がある場合でも実績があります。

① 軽度ERM(黄斑上膜)を合併している場合

Jeon et al., 2022(Graefes Arch Clin Exp Ophthalmol)

  • 遠方・中間視力は ERM のない眼と同等に良好
  • 異常光視は少ない
  • 近方視(UNVA)はERM眼でやや低下

→ 軽度ERMであれば Vivity は十分選択肢になるが、近方視には注意。


▶ ② 両眼白内障+片眼ERM、両眼にVivity挿入

Sararols et al., 2024(Biomedicines)

  • 遠方・中間視は両眼で同等に良好
  • 近方視のみ ERM眼で有意に低下
  • 満足度・異常光視に大きな差なし

→ 軽度ERMがあってもEDOF(Vivity)は現実的な選択肢だが、近方への過度な期待は禁物。


▶ ③ 軽度・安定した原発開放隅角緑内障(POAG)

Urcola et al., 2025(Ophthalmology and Therapy)

  • 対象:軽度(mild)かつ進行のないPOAG

(VFI 80–100%、MD −6 dB以上)

  • 遠方・中間・近方視はいずれも良好
  • ハロー・グレアは非常に少ない
  • 86%が屈折誤差±0.5D以内
  • 86%が「満足」または「非常に満足」

→ 進行していない初期緑内障では、Vivityは安全性・満足度ともに高い。


🔎 この3論文から言えること

  • 視野障害が軽度で進行していない緑内障では、Vivityは使用可能
  • 軽度〜中等度のERMがあっても、遠〜中間視は大きな問題になりにくい
  • ただし ERM 症例では 近方視がやや弱くなる傾向

💡多彩な症例での臨床データがすでに蓄積されている点が、Vivity最大の強み


⑦ 私の意見(臨床医として)

光学設計やベンチデータを見ると、PureSee は非常に魅力的なレンズです。

瞳孔径が変化してもコントラストが落ちにくく、近方も比較的ゆるやかに保たれる設計には、大きな可能性を感じます。

J&J というレンズメーカーの実績を考えても、今後の臨床データには期待しています。

一方で、臨床実績の厚みという点では、現時点では Vivity に明らかな優位性があります。

軽度ERMや初期緑内障といった、実臨床でよく遭遇するケースに関する研究がすでに複数あり、

近方視の限界を除けば、遠〜中間視の安定性や異常光視の少なさは、臨床的にも裏付けられています。

網膜疾患や緑内障がある場合、従来は多焦点眼内レンズを慎重に考える必要がありました。そんな場合でも、

Vivity は比較的安心感をもって選択できるEDOFレンズと言えます。

PureSee も同様の可能性を持つと考えられますが、現時点では臨床データが乏しく、今後の検証が待たれます。

私自身の症例では、PureSee は適応が早く、違和感の少ない良い印象があります。

一方 Vivity は、誰にでも想像しやすい、安定した見え方を提供する「手堅い」レンズという印象です。

PureSee は「最新の光学性能とポテンシャル」。

Vivity は「臨床実績の厚みと確実性」。

レンズの優劣ではなく、患者さん一人ひとりの生活スタイル・眼の状態・価値観によって、最適な選択は変わります。

これからも最新のデータを追いながら、最も納得感のある選択を一緒に考えていきたいと思います。


参考文献

  • Jeon S, et al. Graefes Arch Clin Exp Ophthalmol. 2022;260:3883–3888.
  • Sararols L, et al. Biomedicines. 2024;12(11):2443.
  • Urcola J, et al. Ophthalmol Ther. 2025;14(5):1039–1051.

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