
はじめに:EDOFという選択肢
白内障手術でどの眼内レンズを選ぶかは、その後の生活の質(QOV:Quality of Vision)を大きく左右します。
眼鏡に頼らない生活を目指し、多焦点眼内レンズを選択する方も多くなってきています。多焦点眼内レンズは、回折型、EDOF(焦点深度拡張型)のものが代表的ですが、「ハロー・グレアを抑えて自然に見える」ことを重視する場合、EDOFレンズが好まれることが多いです。
その中でも、2025年に日本発売となったTECNIS PureSee™と、既に日本でも多くの実績があるClareon Vivity™(以下Vivity)は、いずれも「EDOFレンズ」と呼ばれるカテゴリに属しています。
TECNIS PureSeeとは?
PureSeeは、ジョンソン&ジョンソンの単焦点レンズ「TECNIS Eyhance(アイハンス)」の設計をベースに開発された、EDOFレンズです。
アイハンスは、従来の単焦点レンズと同じ構造でありながら、中心部にわずかなカーブの変化(非球面設計)を加えることで、遠方だけでなく中間距離も少し見やすくなる、いわば「準EDOF”レンズ」と言えます。アイハンスは保険診療で使用可能なので、これまで広く使われてきました。
一方PureSeeでは、このアイハンスの設計思想をさらに発展させ、非球面の変化量や球面収差の調整を強めることで、よりはっきりと焦点深度を広げる工夫がされています。
その結果、単焦点に近い自然な見え方を保ちつつも、中間距離まで滑らかにピントが合いやすくなり、アイハンス以上の「焦点の幅」が期待できます。
以下に示すのは、PureSeeと他のレンズとの光学性能を比較した模擬眼での試験結果です。実際の見え方とは異なる場合もありますが、参考資料としてご紹介します。
アイハンスの説明はこちら↓

図①:Defocusカーブによる焦点深度の評価
この図は、視力(LogMAR)と焦点ずれ(Defocus)との関係を示しています。
- PureSee(青緑)は、単焦点の1-Pieceよりも広い焦点深度を示し、アイハンスと同等またはそれ以上の中間視力を保っています。
- Symfonyほど広範囲ではありませんが、自然なコントラストを保ちつつ、焦点深度をわずかに延ばしたカーブとなっています。

図②:MTF(コントラスト)の比較と瞳孔径による変化
左図は、3mmと5mmの瞳孔径でのMTF値(視覚コントラスト)を示しており、PureSeeが他のEDOFレンズ(IOL-A:Vivity、IOL-B・C:他社EDOF)よりもコントラストが良いことがわかります。
右図では、瞳孔径の変化によって生じるMTFの低下率を比較しています。
Vivity(IOL-A)では20%以上のコントラスト低下があるのに対し、PureSeeは約5%の変化にとどまっており、瞳孔径の影響が少ないという結果が示されています。

図③:点像拡散画像(PSF)の比較
この図は、眼内レンズを通した「点像」の見え方を比較したものです。「点像」とは、光源がどのように見えるかを表した図で、見え方の“にじみ”や“明瞭さ”の評価に使われます。
- 単焦点(1-Piece、アイハンス)は明瞭な1点像
- PureSeeはそれに近い自然な像を保ちながら、Symphonyや多焦点レンズに見られるようなリング構造は少ないのが特徴です
- 特に多焦点(TECNIS Multifocal)は複数の回折像が明瞭に確認され、ハローの原因となることが分かります
PureSee vs Vivity vs アイハンス|比較表
比較項目 | PureSee | Vivity | アイハンス |
分類 | 非回折型EDOF | 非回折型EDOF | 機能性単焦点(準EDOF) |
コントラスト感度 | 非常に高い | やや低下することもあるが高い | 高い |
焦点深度 | 中間距離まで良好 | 中間~近方(50cm) | 中間視力にやや寄与 |
瞳孔径の影響 | 少ない | やや影響を受けやすい | 少ない |
国内の実績 | 今後増加見込み | 実績多数 | 実績多数 |
ハロー・グレア | 少ない | 少ない | 少ない |
臨床医としての私見
PureSeeは、まだ日本での臨床経験が少なく、適応を見極めていく段階にありますが、コントラストの高さや瞳孔径の影響の少なさといったデータを見る限り、くっきりとした自然な見え方とメガネ依存度の減少の両立が期待されるレンズと感じています。
一方、同じような明視域(はっきり見える距離の範囲)を持つVivityはすでに多くの実績があります。術後にやや独特な像の感じ方(wavefront shapingによる変形)を訴える方もいますが、ごく少数です。コントラストの良いくっきりとしたハローグレアの少ない視界で、遠くから近方50センチくらいまでの視力を確保したい方には非常に有用だと思います。
アイハンスについては、EDOFとは呼べないながらも、保険の適応範囲内で自然さを重視したい、単焦点志向の方にとってベストな選択肢になり得ます。
まとめ
- PureSeeは、非回折型EDOFとして新たに登場した選択肢であり、「より自然な見え方」を求める方に向く可能性があります。
- Vivityは、すでに実績のある非回折型EDOFであり、中間距離の視力を重視する方に向いています。
- アイハンスはEDOFではありませんが、中間視力の向上を求める方に“準EDOF”として考慮されることがあります。また、保険診療で使用可能です。
どのレンズにも長所と注意点があり、患者さんの目の状態や生活スタイルに応じてベストな選択を一緒に考えていくことが重要と考えています。
今後、PureSeeの臨床データが蓄積されていくことで、より正確な評価が可能になると思われます。
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