「Acriva Trinova Pro(アクリバトリノバプロ)」というレンズは、2024年に国内で製造販売承認を取得し、2025年6月から販売が始まった、比較的新しい三焦点眼内レンズです。開発元のVSY Biotechnology(ドイツ)は、同じ正弦波技術を使った上位モデルをヨーロッパで2021年から展開しており、Acriva Trinova Proはこの技術をベースに国内向けに承認・販売されたレンズにあたります。
選定療養として選べる三焦点眼内レンズの中でも、対応できる度数の幅が広いことが特徴のひとつです。この記事では、Acriva Trinova Proの基本情報から、正弦波回折構造という独自の設計、強度近視への対応、そして注意しておきたい点まで、できるだけわかりやすく整理してお伝えします。
Acriva Trinova Proの基本情報
Acriva Trinova Proは、以下のような基本情報を持つ眼内レンズです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| メーカー | VSY Biotechnology(ドイツ) |
| 日本国内販売 | わかもと製薬 |
| 厚生労働省 製造販売承認 | 2024年9月 |
| 国内販売開始 | 2025年6月 |
| レンズの種類 | 正弦波回折型三焦点眼内レンズ |
| 選定療養 | 対象 |
| 対応度数 | 0.0D〜+32.0D |
選定療養とは、保険診療と自費診療の一部を組み合わせて受けられる制度で、白内障手術に多焦点眼内レンズを使う場合によく使われる仕組みです。Acriva Trinova Proもこの選定療養の対象レンズにあたるため、費用面でも検討しやすいレンズのひとつといえます。
最大の特徴:正弦波回折構造
Acriva Trinova Proの大きな特徴は、「正弦波回折構造」と呼ばれる独自の光学設計にあります。
一般的な回折型多焦点レンズは、レンズの表面に段差のある格子状の構造を作ることで、光を複数の焦点に振り分けています。これに対してAcriva Trinova Proは、段差を作るのではなく、正弦波(サインカーブ)のようになめらかに変化する形状で回折構造を作っている点が異なります。
この設計により、次のような傾向が報告されています。
- 光の損失(光学ロス)が7%程度と少ない
- コントラスト感度への影響が比較的少ない傾向がある
- ハロー・グレア(光がにじんで見えたり、光の輪が見えたりする現象)がやや少なめとされている
いずれも「絶対に起こらない」というものではなく、あくまで設計上の傾向としてご理解いただければと思います。見え方の感じ方には個人差があるため、実際にどう感じるかは人によって異なります。
焦点設計:遠方・中間・近方のバランス
Acriva Trinova Proは、遠方・中間(約80cm)・近方(約40cm)の三焦点に対応しています。
エネルギー配分の目安は、遠方37%・中間29%・近方34%とされており、特定の距離に極端に偏らず、比較的バランスよく配分されている設計です。また、デフォーカスカーブ(どの距離でどれくらいの見え方が得られるかを示すグラフ)が一峰性でなだらかな特性を持つ点も、このレンズの特徴として挙げられます。
中間距離である80cmは、パソコン作業やキッチンでの作業など、日常生活の中でよく使う距離にあたります。遠方・近方だけでなく、この中間距離もカバーされている点は、日常生活のさまざまな場面を見据えたレンズ設計といえるでしょう。
強度近視への対応
Acriva Trinova Proのもうひとつの特徴が、0.0Dという低い度数から対応できる点です。
選定療養で選べる多焦点眼内レンズの多くは、対応度数がおおむね+5.0D〜+6.0D程度からとなっており、もともとの近視が強い方(強度近視の方)では、選定療養の多焦点レンズを選べないケースが少なくありませんでした。
Acriva Trinova Proは0.0D〜+32.0Dという広い度数範囲に対応しているため、これまで選択肢が限られていた強度近視の方にとっても、選定療養の三焦点レンズを検討できる可能性が広がるレンズです。
ただし、実際に選択できるかどうかは、眼の状態や検査結果によって個別に異なります。強度近視と多焦点眼内レンズの関係については、以下の記事でより詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
Acriva Trinovaとの違い
Acriva Trinova Proは、同じVSY Biotechnology社の三焦点眼内レンズ「Acriva Trinova」シリーズの中で、正弦波回折構造という光学設計を採用した新しい世代のモデルという位置づけです。
注意点・デメリット
Acriva Trinova Proを検討する上で、知っておいていただきたい点もあります。
- 近方視力はやや弱い傾向がある:三焦点の中でも近方(約40cm)の見え方については、他の距離と比べてやや弱く感じられる傾向が報告されています。近くの細かい文字を見る作業が多い方は、この点を踏まえて検討することをおすすめします。
- 素材による後発白内障の起こりやすさ:Acriva Trinova Proは親水性アクリルという素材で作られています。眼内レンズの素材としては、親水性アクリルは疎水性アクリルと比べて「後発白内障」(レンズ移植後しばらくしてから水晶体の後ろの膜が濁ってくる状態)がやや起こりやすい傾向があると一般に報告されています。これはAcriva Trinova Pro固有のデータというより、親水性アクリル素材全般に言われている傾向で、後発白内障自体はレーザー治療で比較的短時間に対応できるものですが、素材の特性として知っておいていただきたい点です。
- トーリック(乱視用)は2026年1月に販売開始:乱視が強い方向けのトーリックタイプは、2025年3月に厚生労働省の承認を取得し、2026年1月29日から国内での販売が始まりました。対応する乱視矯正量は2種類(1.50D・2.00D)となっており、乱視の程度によっては対応できる範囲か確認が必要です。
いずれも「必ず起こる」というものではなく、レンズの特性として知っておいていただきたい傾向です。ご自身の眼の状態にどの程度当てはまるかは、診察を通じて確認していく必要があります。
よくある質問(FAQ)
Q. Acriva Trinova Proはいつから使えるレンズですか?
A. 2024年9月に厚生労働省の製造販売承認を取得し、2025年6月から国内での販売が始まりました。乱視矯正機能のあるトーリックタイプは、2025年3月に承認を取得し、2026年1月から販売が始まっています。
Q. 選定療養で使えますか?
A. Acriva Trinova Proは選定療養の対象レンズです。選定療養は保険診療と自費診療を組み合わせて受けられる制度で、費用面での選択肢のひとつになります。実際に選定療養の対象となるかどうかは、医療機関での確認が必要です。
Q. 強度近視でも使えますか?
A. Acriva Trinova Proは0.0D〜+32.0Dという広い度数範囲に対応しており、多くの選定療養レンズが+5〜+6D程度からの対応であることと比較すると、強度近視の方でも検討できる可能性があります。ただし、実際に選べるかどうかは眼の状態によって個別に異なりますので、検査結果をもとに判断することになります。
Q. ハロー・グレアは出ますか?
A. Acriva Trinova Proは正弦波回折構造という設計により、ハロー・グレアがやや少なめとされる傾向が報告されています。ただし、多焦点レンズである以上、ハロー・グレアを完全にゼロにできるわけではなく、感じ方にも個人差があります。
まとめと私の見解
Acriva Trinova Proは、正弦波回折構造という独自の設計により光学ロスを抑えつつ、遠方・中間・近方の三焦点に対応し、さらに0.0Dという低い度数から対応できる点が特徴の眼内レンズです。特に、選択肢が限られがちだった強度近視の方にとっては、選定療養の三焦点レンズとして検討できる可能性が広がるレンズといえます。Acriva Trinova Proを提案するかどうかは、度数の範囲だけで決めているわけではありませんが、強度近視の方の選択肢として有用です。
一方で、40センチまで見えるとはいえ、近くの見え方はやや弱い傾向があると思います。その場合はメガネが少し必要になることがあります。また、素材による後発白内障の起こりやすさなど、知っておいていただきたい注意点もあります。
どのレンズにも得意・不得意があるので、対応度数の広さだけで選ぶのではなく、普段どんな距離をよく見て過ごしているか、乱視の有無、そしてご本人が「どんな見え方だと納得できるか」まで含めて、一緒に考えながら選んでいくレンズのひとつだと考えています。
乱視矯正用のトーリックタイプは2026年1月から販売が始まっており、乱視が強い方も選択肢に含めて検討しやすくなっています。
レンズ選びは、度数や制度の話だけでなく、目の状態と普段の生活スタイルを合わせて考えていくものです。ご自身に合った選択肢がどれなのか、診察の中で一緒に考えていきましょう。


コメント