白内障手術のレンズ選びに、新しい視点
「強度近視なので、使えるレンズが限られると言われた」
白内障手術の相談でこういったお話を聞くことがあります。
強度近視の方は眼内レンズの度数が特殊になるため、
多焦点レンズやEDOFレンズの既製品のラインナップでは対応しきれないケースがあります。
Evolve(エボルブ)は、イタリアのSoleko社が製造するEDOFレンズで、
-5.00Dから+35.00Dという幅広い度数に対応しており、
多くの多焦点レンズではカバーしきれない強度近視の方にも選択肢になり得るレンズです。
さらに乱視矯正タイプ(Toric)では、乱視の度数を0.25D刻みでオーダーメイド設定できます。
日本では自由診療のレンズとして入手できます。
Evolveとは何か
Evolveは、Soleko(ソレコ)社(イタリア)が製造するEDOFレンズです。
2020年にヨーロッパのCEマークを取得しました。
💡光学設計の特徴
屈折型のEDOF設計で、回折構造を持ちません。
レンズ中央のEDOFゾーンが焦点域を伸ばす設計になっており、
瞳孔径が変わっても比較的安定した視界を提供することを目指しています。
メーカーカタログによると、光の40%を中間距離のフォーカスに振り向ける設計で、
遠方から中間距離をカバーすることを主目的としています。
素材は親水性アクリル(含水率25%・UVフィルター付き)、
光学径6.0mm、全長11.2〜11.8mm(度数によって変わります)。
2つのラインナップ
Evolve EDOF(通常タイプ)
乱視矯正なしのタイプ。近視・遠視の度数として-5.00Dから+30.00Dまで、0.5Dステップで対応。
Evolve Toric Customized(トーリックタイプ)
乱視矯正に対応したタイプ。
乱視度数を患者さんの目に合わせてオーダーメイドで設定して製造されます。
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Evolve Toricの最大の特徴
通常のトーリック眼内レンズは、乱視の度数があらかじめ決まった既製品のラインナップから選びます。
0.5D刻みや1.0D刻みなど、選べる度数は限られており、
患者さんの乱視とぴったり合わない場合があります。
Evolve Toricは乱視の度数を0.25D刻みで設定し、その度数でレンズを製造します。
既製品では対応できない細かな乱視度数にも対応できる可能性があります。
「Real Axis Technology」という製造方式
もうひとつの特徴が、軸の扱い方です。
通常のトーリックレンズは、手術中に術者がレンズを回転させて乱視軸を合わせます。
このとき、回転のずれが残余乱視につながることがあります。
Evolve Toricは、乱視の軸をレンズ製造時にあらかじめ組み込む設計になっています。
レンズを常に水平(0°)の位置に固定するだけで乱視が矯正される仕組みで、
手術中に軸合わせのための回転操作が不要です。
これにより、回転ずれによる残余乱視のリスクを減らせる可能性があります。
| 項目 | Evolve EDOF | Evolve Toric Customized |
|---|---|---|
| 乱視矯正 | なし | あり |
| 近視・遠視の度数 | -5.00〜+30.00D(0.5Dステップ) | -5.00〜+35.00D(0.5Dステップ) |
| 乱視度数 | — | 1.00〜15.00D(0.25Dステップ) |
| 軸合わせ | — | 製造時に組み込み・水平固定 |
| 製造方法 | 既製品 | 度数オーダーメイド製造 |
(出典:Soleko公式カタログ)
なお、乱視度数を細かく設定できるとはいえ、
術後の屈折値には誤差が生じることがあり、
乱視を完全にゼロにできるとは限りません。
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強度近視との相性
強度近視の方の白内障手術では、
必要な眼内レンズの度数が通常より低くなる(マイナスの大きい値になる)ことがあります。
多くの多焦点レンズやEDOFレンズは製造できる度数の範囲が限られており、
強度近視の方に対応できないケースがあります。
Evolveは-5.00Dから+35.00D(トーリックタイプ)まで対応しているため、
こうしたケースで選択肢になり得ます。
ただし、強度近視の場合は眼内レンズの度数計算そのものの精度が落ちやすく、
術後の屈折値が目標からずれるリスクが高まります。
この点はEvolveでも変わらず、事前に十分な説明と理解が必要です。
範囲外の特殊な度数については、メーカーへの個別問い合わせ対応となります。
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EDOFレンズとしての見え方の特徴
Evolveは回折型多焦点レンズではなく、屈折型EDOFです。
EDOFレンズは、明確な複数の焦点を持つ従来型多焦点レンズとは異なり、
焦点の合う範囲を縦方向に伸ばすことで連続的な視野を実現する設計です(AAO Task Force定義)。
カバーできる距離
遠方から中間距離をカバーします。
参考として、デフォーカスカーブ(距離ごとの見え方の変化グラフ)の距離換算を示すと、
-1.5Dはおよそ67cm、-2.0Dはおよそ50cm、-2.5Dはおよそ40cmに相当します。
手元(40cm前後)はメガネが必要な場面が出てくることがあります。
ハロー・グレアについて
回折型の多焦点レンズに比べて、光視症(ハロー・グレア)が起こりにくいことが期待されますが、
個人差があり、全く起こらないとは限りません。
コントラスト感度
回折構造を持たないため、コントラスト感度への影響が少ないとされています。
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論文データ(Spadea et al., 2021年)
Evolveの臨床成績については、査読論文が報告されています。
イタリア・ローマのグループ(Spadea et al.)による前向き試験で、
Evolve EDOFを両眼に挿入した20名40眼を6ヶ月追跡した結果です。
術後6ヶ月で目標屈折値の±0.50D以内に収まった眼:82.5%
全体の90%が視力に満足
遠方視力でメガネ不要の患者:95%
近方視力でメガネ不要の患者:70%
両眼中間視力(60cm)0.2 logMAR(おおよそ0.6に相当)以上を達成した患者:92%
平均読書速度:152.1 ± 48.2 WPM(6ヶ月時点)
この論文は乱視矯正なしのEvolve通常タイプを対象としたものであり、
Toric Customizedタイプの独立した臨床データはまだ限られています。
現時点では、大規模な長期データや他のEDOFレンズとの直接比較データは十分ではありません。
その点は正直にお伝えしておきます。
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よくある質問(FAQ)
Q. Evolveは保険適用ですか?
日本では自由診療のレンズです。保険診療の範囲外となります。
Q. どんな方に向いていますか?
強度近視で既製品の多焦点レンズ・EDOFレンズに対応する度数がなかった方、
精密な乱視矯正を希望する方、
あるいは遠方から中間距離をカバーしながらハロー・グレアを抑えたい方が主な対象です。
Q. 強度近視でも白内障手術でEDOFレンズが使えますか?
通常のEDOFレンズでは製造できる度数の範囲が限られており、強度近視の方に対応できないケースがあります。Evolveは幅広い度数に対応しているため、選択肢になり得ます。ただし強度近視では度数計算の精度が落ちやすい点は事前にご理解いただく必要があります。
Q. 通常のトーリックEDOFレンズと何が違いますか?
乱視度数を0.25D刻みでオーダーメイド設定できる点と、
軸を製造時に組み込むため手術中の回転合わせが不要な点が特徴です。
Q. 手元はどの程度見えますか?
EDOFレンズの特性上、遠方から中間距離が主なカバー範囲です。
手元(40cm前後)は場面によってメガネが必要になることがあります。
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医師としての見解
Evolve Toricの特徴をひと言で言うと、
「乱視度数を細かく合わせられる」「術中に軸を回転させなくていい」という2点です。
既製品のトーリックレンズでは度数ステップが合わないケース、
あるいは回転ずれが気になるケースに対して、
新しい選択肢になり得るレンズだと感じています。
一方で、Evolveはまだデータの蓄積が始まったばかりです。
現時点で確認できる臨床データは6ヶ月追跡の前向き試験であり、
他のEDOFレンズとの大規模な比較研究はまだありません。
適応については、目の状態・乱視の状況・生活スタイルを踏まえて、
慎重に判断していく必要があると考えています。
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おわりに
白内障手術のレンズ選びは、目の状態とライフスタイルによって変わります。
Evolveのような選択肢が増えることで、
これまで「ぴったりのレンズがない」と感じていた方にも、
新しい可能性が広がってきています。
どのレンズが合うかは、詳しい検査と診察の中で一緒に考えていきましょう。
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参考文献・資料
– Spadea L, et al. Ther Clin Risk Manag. 2021;17:727–734.
– Soleko S.p.A. EVOLVE EDOF IOL Product Catalogue.
– MacRae S, et al. Ophthalmology. 2017;124(1):139–141.(AAO Task Force EDOF定義)
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※本記事は一般的な情報提供を目的としています。レンズの適応については、必ず眼科専門医による診察のもとでご判断ください。
※Evolveは日本では自由診療のレンズです。取り扱い・価格については受診先にお問い合わせください。

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