強度近視の白内障手術で多焦点レンズは使える?対応レンズまとめ

多焦点眼内レンズ



「強度近視だから、多焦点レンズは使えません」と言われたことがありますか

白内障の手術相談でこういったお話を聞くことがあります。

確かに、強度近視の方が白内障手術を受ける場合、

多焦点レンズの選択肢は限られることがあります。

ただ、「まったくない」かというと、そうではありません。

強度近視の程度に応じて、対応できるレンズの選択肢が段階的に広がってきています。

この記事では、どの程度の強度近視にどのレンズが対応できるのかを、

「対応できる度数の下限」という視点から整理します。


なぜ強度近視では使えるレンズが限られるのか

眼内レンズには、製造できる度数の範囲があります。

強度近視の方が白内障手術を受ける場合、

必要な眼内レンズの度数が通常より低く(マイナスやゼロに近い値に)なることがあります。

多くの多焦点レンズ・EDOFレンズは+5〜+6D程度が製造できる下限で、

それより低い度数が必要なケースには対応できません。

「強度近視だから多焦点は使えない」と言われる場合、

この「度数範囲の壁」が理由になっていることがほとんどです。


強度近視の程度に応じた、3段階の選択肢

第一段階:選定療養レンズ(PureSee・PanOptixなど)

必要な度数がおおよそ+5D〜+6D以上に収まる場合は、

選定療養で使えるレンズが選択肢になります。

PureSeeやPanOptixをはじめ、選定療養対応レンズの多くは

+5〜+6D程度から製造されており、

この範囲に収まる強度近視であれば、

保険診療と組み合わせてレンズを選ぶことができます。

第二段階:Acriva Trinova Pro・Mini WELL READY

必要な度数が+5D未満、0.0D前後まで下がるケースには、

選定療養レンズでは対応できないことがあります。

この段階で選択肢になるのが、

Acriva Trinova Pro(0.0D〜+32.0D対応)と

Mini WELL READY(0.0D〜+30.0D対応)です。

どちらも0.0Dまで対応しており、

選定療養レンズでは届かない強度近視のケースに対応できる可能性があります。

第三段階:Evolve Toric

さらに強度の近視で、0.0D以下(マイナスの度数)が必要なケースや、

乱視が強くより細かい度数設定が必要なケースには、

Evolve Toricが選択肢になります。

Evolve Toricは-5.00D〜+35.00Dまで対応しており、

3つの段階の中で最も広い度数範囲をカバーしています。


各レンズの対応度数と特徴

レンズ名種類対応度数(下限)費用
選定療養レンズ(PureSee等)EDOF・多焦点おおよそ+5〜+6Dから選定療養
Acriva Trinova Pro正弦波型回折三焦点0.0Dから選定療養
Mini WELL READY非回折型EDOF0.0Dから自由診療
Evolve Toric屈折型EDOF(オーダーメイド)-5.00Dから自由診療

各レンズの特徴

選定療養レンズ(PureSee・PanOptixなど)

PureSee(TECNIS PureSee)やPanOptix(クラレオン パンオプティクス)など、

選定療養の枠組みで使えるレンズは種類が豊富で、臨床実績も豊富です。

必要な度数が+5〜+6D以上に収まるのであれば、

まずこのカテゴリーの中から検討するのが自然な流れです。

Acriva Trinova Pro(VSY Biotechnology・オランダ)

Acriva Trinova Proは、正弦波(サインカーブ)型の回折設計を採用した三焦点レンズです。

段差のない滑らかなゾーン設計により、

光の損失を抑えてコントラスト感度を維持することを目指した設計になっています。

遠方・中間・近方の三距離をカバーするため、

メガネへの依存度を大きく減らせる可能性があります。

ただし三焦点レンズの特性として、ハロー・グレアがある程度出ます。

対応度数は0.0D〜+32.0D(添付文書より)で、選定療養で受けることができます。

Mini WELL READY(SIFI・イタリア)

Mini WELL READYは、回折構造を使わないEDOFレンズです。

レンズの光学部を3つの同心円ゾーンに分け、

それぞれ異なる球面収差を持たせることで焦点域を伸ばす設計になっています。

遠方から中間距離をカバーし、回折型と比べてハロー・グレアが少ない傾向があるとされています。

手元(40cm前後)はメガネが必要な場面が出てくることがあります。

対応度数は0.0D〜+30.0Dで、自由診療となります。

Evolve Toric(Soleko・イタリア)

Evolve Toricは、屈折型EDOFレンズで、

乱視の度数を0.25D刻みでオーダーメイド設定できる点が特徴です。

-5.00Dから+35.00Dまで対応しており、

マイナスの度数が必要なケースにも選択肢になり得ます。

自由診療となります。

→ Evolveの詳しい説明はこちら


共通して知っておいてほしいこと:強度近視での注意点

度数計算の精度について

強度近視の方の白内障手術では、

眼内レンズの度数計算の精度が落ちやすいという課題があります。

眼軸が長い目では、計算式の誤差が大きくなりやすく、

術後の屈折値が目標から外れるリスクが通常より高くなります。

これはどのレンズを選んでも共通する課題です。

術前の十分な説明と期待値の調整が特に重要であり、

強度近視の手術経験が豊富な施設での手術が特に大切になります。

合併症リスクと適応判断について

強度近視の目では、白内障以外の目の問題を合併していることが少なくありません。

網膜が薄くなっていたり変性があったりなどの網膜の病気や、

緑内障を合併しているケースも多くあります。

こうした合併症がある場合、多焦点レンズが適応できるかどうかは、

単に度数が対応しているかどうかとは別に、慎重な判断が必要になります。

コントラスト感度の低下が問題になる病態があれば、回折型多焦点レンズは避ける必要があり、

網膜疾患や緑内障の状態によっては、単焦点レンズの方が適切な場合もあります。

「強度近視でも使えるレンズがある」という情報は正しいですが、

「強度近視なら誰でも多焦点レンズが使える」ということではありません。

目の状態を総合的に判断した上で、適応を考える必要があります。


よくある質問(FAQ)

Q. 強度近視でも多焦点レンズを使いたいと思っています。まず何をすればいいですか?

まずは詳しい検査を受け、必要な眼内レンズの度数を確認することが第一歩です。その上で、その度数に対応できるレンズがあるかどうかを担当医と相談することになります。

Q. Acriva Trinova ProとMini WELL READYはどちらも0Dから対応しているのですか?

はい。Acriva Trinova Proは0.0D〜+32.0D(添付文書記載値)、Mini WELL READYは0.0D〜+30.0Dに対応しています。選定療養レンズの多くが+5〜+6Dからであることと比べると、より強度近視のケースに対応できます。

Q. Acriva Trinova Proは選定療養で受けられますか?

はい。Acriva Trinova Proは日本で選定療養の対象となっており、保険診療と組み合わせて受けることができます。Mini WELL READYとEvolve Toricは自由診療です。


医師としての見解

以前は、強度近視の方に多焦点レンズやEDOFレンズを提案できる場面が非常に限られていました。

今は「必要な度数の下限」という視点で段階的に対応できるレンズが増えてきており、

こうした方にも「手元を見たい」「メガネへの依存を減らしたい」という希望を

一緒に考えられるようになってきたと感じています。

ただし、強度近視での度数計算の精度の問題は残ります。

術後の見え方が目標通りにならない可能性について、

十分に理解していただいた上で進めることが前提です。

また、網膜疾患や緑内障などの合併症がある場合は、

多焦点レンズが適応できるかどうか、慎重に判断する必要があります。


おわりに

「強度近視だから、多焦点レンズは使えない」とあきらめていた方も、

必要な度数によっては選択肢があるかもしれません。

どのレンズが適しているかは、必要な度数・目の状態・生活スタイルによって変わります。

詳しい検査と診察の中で、一緒に考えていきましょう。



※本記事は一般的な情報提供を目的としています。各レンズの適応・価格・取り扱い状況は施設によって異なります。必ず眼科専門医による診察のもとでご判断ください。

※Acriva Trinova Proは選定療養、Mini WELL READYとEvolve Toricは自由診療です。

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